『創意工夫と継続することがスキルアップの要』長崎大学小児外科 チーム長 山根裕介先生インタビュー(前半)
KOTOBUKI Medicalインタビュー企画第二弾として、長崎大学小児外科チーム長の山根裕介先生にご来社いただき、『山根塾』など外科教育に関する取り組みや、医師として、また父としての日々の心がけなどについてお話を伺いました。
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1.本日はお忙しい中インタビューのお時間をいただきありがとうございます!まずはじめに、 現在の取組みを教えてください。
ざっくり言うと、後輩たちが働きやすい環境づくりが僕の現在の取り組みです。
小児外科に限らず、外科医が全体的に減っている現状を良くするために、外科教育を通じて外科全体を盛り上げる一助にもなりたいと思っています。
ただジレンマがありまして。
外科医を増やすために外科へのリクルート活動もしたいのですが、それを念頭においてしまうと主軸の外科教育の内容に「来てほしい」という無意識の欲、色気が出てしまうんですよね。
外科に来てほしいけれども、来てもらうために外科教育するのではなく、外科の良さや本質を伝えることによって結果的に外科に人が増える。
そういうスタンスで行きたいと思っています。
ただ外科教育に注力していると、医局からは「ああ、リクルート活動の材料に使えるな」と見られてしまうことはあるのですが(笑)
そこはちょっとした悩みでもあります。
あとは、プライベートになっちゃうのかも知れないですが、健康づくりにも力を入れて取り組んでいます。
お酒を飲むのをやめたり。
お酒での失敗が過去に結構あって・・(笑)禁酒も3年になりました。通勤ランニングも続けています。
自宅から病院まで1キロちょっとですが。個人的にジムに行くのが苦手で、なるべく自分でできるトレーニングをするようにしています。
KM:健康づくりや自己鍛錬で磨かれたメンタルが教育に生きたりするのでしょうか?
あまりないかも知れないです(笑)
山根塾で気を付けてるのは、逆に体育会になり過ぎないようなこと。
医学生の中には、外科医に対して怖いイメージを持っていて緊張している方もいたりするので、割とほんわか、ふわっとゆるくやっています。
良い意味で拍子抜けしたという感想をもらったりもします。
なるべく敷居を下げて、外科への興味を持ってもらいたいなと。
あとは、実は筋トレだけじゃなくて朝からの家事もルーチンにしています。
朝起きて家事して自己研鑽、といった流れです。
【山根先生の朝のタイムスケジュール】 5:30 起床 食洗器の食器を全て戻す ご飯を鍋で炊く&お味噌汁を作る アミノ酸を飲んでメールチェックしながらストレッチ 筋トレ&プロテインを飲む 6:30 子ども達を起こしてコミュニケーション 6:40 出勤(通勤ランニング) 7:00 ランニングのクールダウンを兼ねてラパロで折り鶴を作成 7:10 オムニトレーナーで縫合結紮の練習 7:30 朝のグループ回診
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KM: オンライン山根塾を始められて3年ほどになりますが、何か変化はありますか?
大きな変化はないかも知れないです。
人数は開始当初からコンスタントに毎週平均5人、少なくて3人、多くて10人といった感じです。
山根塾の生徒がその後みな外科医になっているわけでもないですし。
ただ開始当初は長崎大学の学生だけでしたが、今は「Youtube」や「Twitter」での発信効果もあり、DMなどでの直接の問い合わせが増えました。
長崎大学以外の学生さんも多く参加しています。
現在、延べ人数で4、50人が山根塾で学んでくれています。
KM:今後が楽しみですね。オンライン山根塾のアーカイブや、手技動画をYoutubeで発信されていますが、コンテンツ作成の際意識していることがあればお聞かせください。
オンライン山根塾は毎週水曜の21時に行っていますが、バイトなどで来られない方も結構います。
山根塾ではその日のアーカイブを後日限定公開で配信していて、来られなかった方はその配信を見ながら自主練をしてくれています。
配信で気を付けていることは、動画に音を入れないこと。
音を出せない環境でも練習できるようにするためと、視覚情報の処理を鍛えるためです。
手術では視覚情報が非常に重要になるので、音声を意図的に消して、視覚情報に集中できるようにしています。
また手技動画作成の際には、みんながつまずきやすいあるあるを載せるように心がけています。
おかげさまで現在、チャンネル登録者数は2100人になりました。
2.医学教育において、現在課題だと感じていることはなんですか?
色々ありますが、自分のスキルを磨く際に自腹でお金をかけられる人が少ないことでしょうか。
トレーニングって結構コストがかかります。
消耗品である糸針や鉗子や持針器、ドライボックスなど。
手技動画の作成テーマとして、100均製品など身近な物でのトレーニングやDIY方法を取り上げることもあります。
3.上記課題を踏まえ、先生が医学教育において意識されていることはなんですか?
外科へのリクルート活動と外科教育を明確に分けることです。
また、教育をする際には、必要以上に厳しく指導しないことを心がけています。
「ふわっとゆるい雰囲気を山根塾では作るようにしている」と先ほど述べましたが、具体的には例えば、次男にご飯を食べさせながらだったり、宿題の付き添いをしながら教えることもあったりします。
男性医師が家から子どもを見ながら学生たちに教育をする、今の時代ならではのこういう働き方もあるんだと伝えたい部分も大きいです。
仕事がどうしても終わらない時は、お迎えに行った子ども達を医局で待たせたりすることもあります。
一昔前なら「子どもを職場に連れて行くなんて」という雰囲気が確実にあったと思うのですが、今はそんな時代ではないので積極的にそういう姿を若い世代に見せたいと思っています。
KM:山根塾に見学者として参加させていただいたことが二度ほどあるのですが、先生が息子さんの歯磨きをしながら教えてらした姿をよく覚えています。かといって指導がおろそかになることはもちろんまったくなく、学生さん達も和やかな雰囲気で真剣に挑んでいる姿が非常に印象的でした。
4.頼りがいのある医師としての姿だけでなく、良き父としての姿も印象的です。ワークライフバランスを取る際に、どのようなことを工夫されていますか?また、新米パパ医師、新米ママ医師へのアドバイスがあればお願いいたします。
このテーマいっぱい話せます(笑)
ワークライフバランス取れている印象があるかも知れないんですが、実は最近までは全く家のことが出来てなかったんです。
2011年に長男が生まれたんですが、あっという間に2歳になっていた。
自分が31歳、32歳の頃の話です。
KM:やはり30歳前後というのは、外科医として脂がのっている、キャリア形成の時期なのでしょうか。
がむしゃらに駆け上がらなければいけない時期でした。
その頃は2年間で執刀500件、前立ち500件、合わせて1000件ほどの手術を経験しました。
この時期に家庭を顧みず集中して手術を経験したからこそ、今ある程度の余裕があるのだと思っていますが、その当時はワークライフバランスについて語れるような状況に全然ありませんでした。
今のように仕事と家のバランスが取れるようになってきたのは2021年頃です。
大きなきっかけは、コロナ禍中に家の購入を決めたことと、次男が入院したことでした。
実家が遠方だったので周囲のサポートが難しく、妻が健康であることが山根家の最重要事項だなと実感しました。
妻よりも僕の方が体力・パワーもあるので、家のことをできるだけやっていこうと。
まず土日の朝ごはん係を担うことからスタートしました。
その後徐々に他の家事も行うようになって一年ほど経った頃、次男が急病で入院することになりました。
コロナ前だったら、子どもの付き添いの保護者が用事のために外出したりだとか、子どもの経過が良ければ一時帰宅(外泊)なども出来たりしたんですが、コロナ禍では一切それらが禁止されていたんですね。
しかも保護者の交代も1週間に1度しかできない。
なので、妻が付き添いをして僕が家のことを一手に担うことになりました。
もちろん大変な部分も沢山あったんですが、「意外とやれるな」と。
5:30に起きるようにしたのもその頃からなんですが、早く起きれば色々家のことを回せるしお酒飲まなければ朝も辛くないし(笑)
次男は無事退院しましたが、その後も家事に積極的に関わることが定着しました。
KM:家のことを全くしない状況から、積極的にコミットするようになった現在にかけての変化の中で、工夫されていることはありますか?
まず、「妻の言うことは絶対」というスタンスでやっています。
逆らわない(笑)。
食洗機から食器棚に戻すときも、食器の定位置が決まってるのでそれを崩さない。
洗濯物の畳み方も妻のやり方に従っています。
洗濯でもう一つ気を付けてるのは、洗濯ネットを入れるものと入れないものの選別ですね。
リスクヘッジのために妻の衣類は全てネットに入れ、僕と子ども達のものはそのまま洗っているのですが、子どもの高い服などもきちんとネットに入れています。
あと米を炊くときに、あ、うちは鍋炊きなんですが、朝炊いてると起きてきた妻に鍋蓋を開けて水加減をチェックされることがあるんですが、
「今炊いとるやん。俺に任せてくれればいいのに」
とイラっと来てもぐっとこらえて黙っています(笑)
僕は濃い味が好きなんですけど、作った味噌汁を配膳してみんなで食べている時に妻が黙って彼女のお椀に水を足されたりしますが、そういう味変行為にももちろん何も言いません。
KM: ぐっとこらえることは大事ですね(笑)これからお母さんになる、お父さんになる若い先生方が沢山いらっしゃると思います。何かアドバイスはございますか?
僕もずっとバランス取れてたわけではないのでどう声をかけたら良いのか迷いますが。
やはり医師として、爆発的に集中して仕事に打ち込まないといけない時期はあると思うんです。
その時期は割り切って医師業に専念して、それ以外のときは、家事・育児を一生懸命することですかね。
医師は激務の方が多いので、親など周囲のサポートがないと立ち行かない点もあると思うんです。
僕は妻が専業主婦なので本当に助けられていますが、共働きの人は大変だと思いますね。なので特にこれからパパになる人は、家のことを一通りできるようになるのはマストだと思います。
家事に関して、どうしても男性は「この家事は俺の分担だけどそれ以外は違う」と線を引いて考えてしまいがち。
そうではなくて、自分ごととして取り組む姿勢が、リスク管理の観点からも大事だと思います。「自分の力でどこまでできるか」と自省して取り組むことは、手術の上達にも繋がってくると思います。
仕事と家庭の両立を上司から率先して取り組まないと、若い世代がワークライフバランスを取るのは難しい。
僕の直属の小児外科チームには子どものいる外科医がまだいないのですが、今後パパ医師、ママ医師が出て来てくれて、例えば親やパートナーのサポートが得られないが急患対応が必要、でも子どもが熱出してる、そんな状況もあると思うんです。
そうなったら「よし、お子さんは僕が見るから、安心して急患業務にあたって来て」と送り出せる体制を整えたいと思っています。
”保育所・山根”を開設するくらいの心意気でいます。
KM: 長崎大学は男性医師の育休取得推進のため、雰囲気作りを大事にしている旨、公式facebookの発信で拝見しました。
そうなんですか!でも確かにこの間僕の後輩(医師3年目、男性)が育休取得していました。
KM: 昨今、育休取得率(特に男性)や復帰率(特に女性)を掲げている企業が増えていますが、医局もそういう時代に入っているのかも知れないですね。
確かに、そういう時代です。今度から医局のfacebookを通じて持ち回りで「今日はこんな料理を作りました」みたいな発信をするのも良いかも知れない。これはリクルートにも繋がりますね。
山根 裕介(やまね ゆうすけ)先生 ご所属 長崎大学病院腫瘍外科 長崎大学小児外科チーム長 ご専門 小児外科 外科教育 プロフィール 2005年長崎大医学部卒。07年同大病院腫瘍外科に入局後、大分県立病院、佐世保市総合医療センターを経て、09年より国立成育医療研究センターで小児外科を専従。11年に佐世保市総合医療センター、13年より長崎大病院腫瘍外科に戻り小児外科を専従。18年より現職。趣味は将棋、競馬、手術、外科教育。
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